サウンド茶会記


『商空間の音響・映像設備』
2007年11月3日


エレベータの扉の前でエレベータが来るまでのイライラを解消するため音楽を流し始めたのがBGMの始まりと言われていてこれを「エレベータ・サウンド」と呼んでいた。
時が経ると店内のざわめきによる不快感を少しでも和らげるという目的で音楽を流すようになった。今ではデパート等の商況空間やファミリーレストランで日常的にBGMが使われるようになった。
BGMはバックグラウンド・ミュージックの略で絵でいえば背景にあたり、芝居では黒子の役割を果たしていて音楽の再生意図もなくありあわせのものが漫然と四六時中鳴っているという感じがする。



1990年後半に複数の音源を複数のエリアに任意に配信できるデジタルマトリックス機器の開発が進み、各エリアに客層に合った音源を流すことができるようになった。このような技術的進歩に対し商空間のオーナーたちは、音楽ならびに映像を売り上げの向上に役立つツールとして積極的に使うようになった。このような音楽や映像のコンテンツ再生形態を前景(フォアグラウンド)音楽と呼びFGMと名づけられた。コンテンツが主役に躍り出たのだ。
FGMの跋扈により使われるラウドスピーカも施主の表現意図に合わせたものが求められている。テンポならびにレストランは、その床面積が売り上げにかかわるため、売り場面積を占有する床置き型のものは受け入れられず、壁面か天井に設置できる製品が求められる。その上内装の意匠にあう形状と仕上げを求められ、場合によってはラウドスピーカが全く見えないことを要求される。しかしその音響性能に妥協は許されない。おのずと特注品をその都度作っていくという技術力が要求される。
昨今は「リテイル(小売)音響・映像設備」という市場分野も生まれており、小売(といっても大きなチェーン体系を持っている)会社が独自のスタジオを持ち、独自のコンテンツ制作を行い世界に配信している例も数多くある。
ショッピングモールの中にある小売店の中に一歩入るとディスコテックと間違うような強烈なサウンドが再生されていて、その雰囲気の中で客が商品を選択するという光景を見かけるようになった。一歩外に出るとそこは静かなショッピングモールで、店内の喧騒は一切聞こえず日常の世界に戻っていく。
今商業空間は、通信、音響、映像そして照明技術だけでなく建築的対応もなされる総合的なビジネスを生み出そうとしている。